2020年6月9日火曜日
赤ちゃんのいる日々
さっき授乳を終えて、寝ついている赤ちゃんを布団の上に戻し
肌掛けをかけた。
窓の外が白んで、
カラスや他の鳥(ぎぃぃ、とか、チリチリ、とか)の鳴き声が聞こえてくる。
網戸から入ってくる空気が涼しい。
夜中に授乳する暮らしが始まった。
人の体はとてもよくできていて
妊娠後期から2、3時間おきに目が覚めてしまう睡眠サイクルになっていたので
2、3時間おきに授乳で目が覚めるのも、今のところ大丈夫で
自然と目が覚めるし体が動く。
赤ちゃんに肌掛けをかけたあと、私もまた眠ろうと思って横になったけど
赤ちゃんが「んん…」と言ったので、なんだ、と思って起きる。
起きて見たものの、赤ちゃんはそのままスヤスヤ眠っていて
その様子をじっと見てたら、なんとなく今のことを書き留めたくなって
布団から出てきてパソコンを開いた。
夜のうちからゆっくり始まった陣痛。
間隔をあけて、
1分ほど、きゅうっと腰回りが締め付けられるような痛みがきた。
痛みと痛みの間隔が10分前後になると、横になっているのが辛くなってきて
(体を起こしている方が楽だった)
壁にもたれながら眠っていた朝の4時頃。
朝の5時頃、起きてきてくれた夫と朝ごはんを食べて
6時まで待って産院に電話をかけると
まだ声に余裕があるし、大丈夫そうだから8時過ぎにきてください
と言われる。急なことがあればいつでもきて、とも。
8時にタクシーを呼んで、産院へ向かう。
夫は感染症対策から分娩室に入ってからの立会い以外、産院へは入れないので
産院の玄関先で夫と別れる。
お産が進んだらまた呼ぶことに。
入院の荷物を持って産院へ入ると、助産師さんが迎えてくれた。
陣痛室(子宮口が充分に開くまでいる部屋)に入ると
赤ちゃんの心音と子宮収縮を確かめる装置とがお腹にベルトで巻かれる。
産院に着いてから陣痛の間隔がまた開いてきたので
陣痛を促進させるバルーンを子宮に入れることに。
助産師さんから、ここから子宮口が開いてバルーンが抜けるのが
昼過ぎくらいかな、でも先生がすぐ抜けるって言ってたからどうかな、と言われる。
助産師さんは、朝出迎えてくれた人と変わって
ちゃきちゃきした若いお姉ちゃん、という感じの人に変わっていた。
陣痛室に戻ると次第に陣痛の間隔が短くなってきて
お腹を下した時のような痛みがやってくる。
横になっているとやっぱりしんどくて、ベッドの上に膝立ちになって腰をさすった。
痛みがきたら、息を吐くと習ったから、はーっ、はーっ、と長く息を吐きながら。
ふと窓からの景色が視界に入った。
青空。
早朝は曇っていたのが、晴れている。
夫と、初夏の気持ちのいい空気を名前に入れたいね
こんないい季節に生まれてくるんだね、と
天気のいい日に散歩しながらよく話していたので
この季節のいい気候の日に、やってこられる。と思う。
11時頃、股から急に生ぬるいお湯がふわぁぁぁと出てくる。
破水なのかおしっこなのかわからなくてナースコールを押す。
やってきてくれた看護師さんが、破水やね、と教えてくれて
「お手伝いしていいですか?自分で履く?」と聞かれた時
もう無理はしないで、してもらえることはしてもらおうと思い
看護師さんにお願いして下着を変えてもらった。
それから間もなく分娩室に入ることになり、夫に連絡するように言われる。
夫に電話をかけると出ないので、メッセージを入れようと思うも
その時は陣痛がかなり痛くなってきていて余裕がなく
入れたメッセージは
「破水して、子宮口もあいて」
「きてー、」
「(夫の名前)」
11時17分に送ってる。
それからすぐに夫から折り返し電話があって、
分娩室に移るので産院に来てくれるように伝えた。
分娩室に入ってからはあっという間で
助産師さんと看護師さんにリードしてもらって息を吐いているうちに
「赤ちゃん見えてきたよ」と言われる。
「うんちがしたい…」と言うと
「それが赤ちゃんだよ!」と言われ
鏡を見せてもらうと赤ちゃんの頭が見えた。
陣痛の痛みがきた時に
助産師さんから
「目を開けて、私の方に向かって、まっすぐ息を吐いて!」と言われ
ふーーーーっと長く息を吐くと
鏡の中で、出口がちょっと開き、赤ちゃんの頭がぐんと進んでくるのが見えた。
本当に、息に乗って、やってくるんだ!とわかって
ふーーーーーーーっ
ふーーーーーーーっ
と、息を吐ききる。
陣痛の合間、ほんのわずかな時間は、痛みがぴたりとなくなるので
「今、休むよー!深く息吸って赤ちゃんに酸素送ってあげてー」と言われ
深呼吸をする。
「赤ちゃんの心音聞いてね」と言われ
聞こえてくる心音に意識を向けると
息を深く吸い込むと同時に、赤ちゃんの心音が強くなった。
「旦那さん着いたって」「先生が入ったら、旦那さんにも入ってもらおう」
と助産師さんと看護師さんが話してる声が聞こえてくる。
気づいたらいつも診察してくれていた院長先生が来て
引き続きいきむ中で、痛くて声が出た時に
院長先生がお腹に手を置いて「力を入れるのはここだけ」と言った。
お腹に置かれた手の感触がたよりになって
そこに意識を持って、また長く長く、息を吐く。
夫が入ってきたのと同時くらいに、取り上げられた赤ちゃんの姿が見えた。
12時15分
白くて、濡れてて、でも赤くて、はだかんぼうの赤ちゃんの体。
助産師さんが赤ちゃんの口の中から
赤ちゃんが飲み込んでいた羊水を出してくれている間
夫が横に来てくれて顔が見えた。いつもの夫の顔だ。
手を伸ばしたら手を握ってきてくれて、すごく安心した。
お股のところで、院長先生が、胎盤を取り出している。
(いろんなことが同時にどんどん起こっている)
助産師さんが、胸の上に赤ちゃんを乗せてくれた。
重たい。でも軽い。小さい。でも、手足に長い指が揃っていて、2、3ミリほどの爪が生えてる。
「よくきたね、がんばったね」
と声をかけて、体に触れた。
院長先生はもくもくとお股の裂けた部分を縫合していて
(裂けた痛みは感じなかった)
看護師さんに声かけられるままに、赤ちゃんと夫と、家族3人で
初めて写真を撮ってもらう。
感染対策で、最小限の時間の立会いということで
夫はすぐに分娩室から出るように促され
赤ちゃんも預かってもらい
私は骨盤ベルトをぐるぐるっと巻かれて、横になった体勢のまま
入院室のベッドに運ばれ「2時間はこのままで」と伝えられた。
横になりながら
数時間の間の出来事がぱーっと巡ってきて
無事に生まれてきたんだ…と実感がやってきた。
何にともなく、というか
何から何にも、感謝が湧いてくる。
自分の力でできたことは何もなかった。
本当に、赤ちゃんの力と
ナビゲートしてくれた助産師さんと看護師さん、先生がいてくれて
産まれたところに、夫が寄り添ってくれた。
ありがたい、ありがたい。
入院生活中は、面会もなかったので
産院のスタッフの方々と、他の産婦さんたち、赤ちゃんたちと
わたしと赤ちゃんの、しずかなしずかな時間になった。
他の産婦さんたち、といっても個室だから
ほとんど関わることもなく。
退院最終日に、小さな食事会があって、その時に集ってお話ができたけれど。
すこしずつ赤ちゃんと同室の時間が増えていき、
まだあまり出ないおっぱいを繰り返しあげ、
ゆっくり赤ちゃんとの距離が近づいていった。
はじめは、「誰に似てるだろう」と
まだ見慣れない赤ちゃんの顔の中に、家族の面影を探そうとした。
それが、次第に、赤ちゃん自身の顔を「この子の顔」と見つめるようになった。
片手で彼女を抱っこできるくらい、お互いに慣れてきた頃退院になって
夫と、実家から手伝いにきてくれた母のいる家に
赤ちゃんと戻った。
戻ったその日は、赤ちゃんも緊張したのか
飲んでも吐き戻してもおっぱいを欲しがり
どうしたらいいのかわからなくて一瞬途方に暮れかけたけれど
翌日からはなんとなく、赤ちゃんも慣れてきた様子。
夫と私が眠る間に
赤ちゃんが眠るようになった。
もっともっと、自分は戸惑うかと思っていたけど
3人で川の字で寝るのが
まったく違和感なく、すんなりきている。
(でもそうか、ずっと、3人で寝ていたんだ。お腹の中か外かというだけで)
赤ちゃんを見るとかわいい。
でもかわいいから、抱いているわけじゃない。
なんともいえない。
自分が産んだから、と思って、抱いているわけでもない。
なんともいえない。
やってきた。今いる。それだけ、というか
それが、充分。
夫に思い浮かんできた名前を
生まれて7日目に、つけさせてもらった。
繰り返し、名前を呼んでみる。
合わなかった目が、いつからか合うようになって
黒目を見つめていたら
赤ちゃん側から送られてきた何かを、受けとった感覚が不意にやってきて
胸がじんとなった。
ようこそ、ようこそ。
ここは、楽しいところ。
美しいところだよ。
そう伝えていきたいし
果敢に産まれてきた彼女から、
私もまた、教わるような気がしている。
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